押しかけ×執事

「すまないね、優人。朝から来てもらって」

 あたしの後ろにやって来たお兄さんは、そう言ってあたしの目の前の柏木と名乗る執事さんに声をかける。

「いいえ」

 にっこりと微笑んだまま、柏木さんは小さくお兄さんに会釈。

「手続きは済ませてくれた?」

「はい。先ほど全て終えました」

「ありがとう」

 あたしには分からない会話を手短に済ませたあと、

「さつきちゃん」

 お兄さんはあたしに声をかけてくれる。

「この部屋を引き払うのは止めたよ。――さつきちゃんの心の拠り所のこの部屋で、今までと同じように暮らすといい」

「え……?」

 唐突なその言葉に、思わず後ろのお兄さんを見つめた。

 今までと、同じように……?

 この部屋、で?

 その言葉を飲み込んで理解するまで、随分と時間が掛かったように思う。

 それくらいあたしには予想外の答えだった。