押しかけ×執事

「……」

 お兄さんの言葉を受けて、再びドアに向かい、ゆっくりと手を伸ばして鍵を外す。

 小さな開錠の音に続き、ドアノブに手をかけ、開く。

「――……」

 ドアを開くと、1人の男性が立っていたけど……一目見て、驚く。

 黒い燕尾服に身を包んでいる人なんて、テレビでしか見たことがなかった。

 少し細いけれど、柔らかく包み込むような目に、少し襟足が長めだけどふわりとまとまっている髪の毛。

 その人は柔らかい笑顔であたしを見て、目が合うとさらに優しくにこりと微笑んでくれてから、

「さつきお嬢様でございますね」

「は、はい――」

 名前を呼ばれて、戸惑いつつも返事。

 お嬢様、っていうのが少し気になるけど……

「私、仲春家にお仕えさせていただいております。執事の柏木優人(かしわぎ ゆうと)と申します」

 燕尾服を着たその人――柏木さんは、あたしに向かって丁寧に頭を下げてくれる。

「あ、は、はい――」

 思わず、釣られるようにしてあたしもぺこんと頭を下げた。