ゆっくりと流れる時間。

私はこの瞬間が大好きだ。

この世界に私たち二人しかいないんじゃないかと錯覚できるから。


「…明日か」

テーブルに箸を置き、横にあった夕刊を広げながら呟く。

多分私に向けたものではなく、自分で再認識するかのような声。

それまで私を包んでいた温かく柔らかい空気が、一瞬重くなる。

「ママの命日?」

「…ああ」

漏れる溜息と共に返事をするパパを見て、『ああ。やっぱりまだママのことが、好きなんだなぁ』と思う。

「仕事は?」

「ん~。忙しくはないけど…」

「お墓参り。行かないの?」

「ゆき乃。一人で行っておいてくれないか?」

「別に…いいけど」

いつの頃からか、私たちは一緒にお墓参りに行かなくなった。

私が行かないのではなく、パパが私と一緒に行くのを嫌がるようになった。

だからと言って、パパがお墓参りに行かないわけではない。

お寺の住職さんの話では、姿をよく見かけると聞いているから、一人では行っているようだけど。

(夫婦水入らず、二人だけで話したいこともあるってこと…か)

私は、落ちていきそうになる自分の感情を無理やり食い止める。

「うん。分かった。明日は一人で行ってくるね」

パパを安心させるようにニコリと笑う。