(まだリビングに居るのかな…)

気持は整理がついていないので、まだ会いたくなかった。

少し緊張しながら、リビングへと繋がる狭い廊下を静かに歩く。

(もしまだ居るようなら、そのまま寝てしまおう)

音をたてないように注意しながら、ドアノブを捻る。

こぶし一つ分ぐらい開けて、中を窺う。

電気が点いていた。

(まだ起きてるんだ)

そう思い、ドアを閉めようとすると、低い呻き声が聞こえた。

荒い息使いの間に聞こえる、何かを堪えるような声。

(…パパ?)

具合でも悪くなったのかと不安になって、閉じようとしていた扉を再び開く。

中を見渡すと、さっきのソファにパパはいた。

私のいるドアに対し、ソファは垂直に配置されており、こちらを振り向かない限り、パパからは私は見ない。

しかも、今パパは背を丸めうずくまっていたから、私には全く気付いていないらしかった。

時折、肩で息をするように大きく上下させているのが、ここからでも分かった。

(大丈夫?)

不安になり、声をかけようとしたその時だった。

「…ゆきの」

小さな声ではあったが、ハッキリと耳に届いた。

思い掛けない呼びかけに、こちらに気づいたのかと焦る。

(どうしよう…)

頭の中がグルグルする。