私は、呆然と前を見ていた。

目の前には、電源の入っていないTV。

黒い画面を見入るように、前を見ていた。

五感は正確に働いている。

目の前にあるのはTVだと認識できているし、時計の秒針の音もチクタクと聞こえている。

がしかし、入ってくる情報は全て脳を通過し、頭には何も残らない。

おもむろに冷蔵庫の中からビールを取り出して飲み干す。

すでに転がっていた空き缶をさらに増やす。

取り戻したはずの理性は、再び自分の中から離れていく。

消えゆく理性を補うかのように広がっていく欲望。

束の間、抱きしめたゆき乃の感覚を取り戻す。

温かく、柔らかく、甘い。

もう一度。

今一度、触れたいと思う。

そして自分のものにしたいと。

「ゆき乃…」

瞼(まぶた)の裏に淫らに喘ぐゆき乃を想像しながら、欲望の塊に触れる。

そこは既に鎌首をもたげ始めており、快感を欲していた。

私は、その欲求に対し忠実な行動をとる。

前を寛げさせ、取り出し、扱く。

「…ゆき乃」

時折、漏れる溜息にも似た喘ぎ声とともに、名前を呼ぶ。

現実の『ゆき乃』とは別に、私の中の『ゆき乃』が私の呼び声に答える。

はち切れんばかりに膨らんだ欲望のまろみを指先に感じると、扱くスピードを上げる。

全身に伝播する快感。

真っ白な世界への浮遊感。

私自身を表した様なドロッとした白濁の欲望。

一度吐き出したぐらいでは収まらず、再び手を伸ばす。

もっと。もっと。もっと。

何度もゆき乃と体を重ね合わせる。

快感に満たされた私に、疲労感と眠気が襲う。

そのまま体を委(ゆだ)ね、闇に堕ちた。