胸が痛かった。

激痛が走るというよりは、重量のある石を乗せられているような鈍痛。

痛みは、体の内からじくじくと広がっていく。

それは、ゆき乃が暴れていた時、肘で胸を打ちつけたからじゃなく、自分の行動がどれほどゆき乃を傷つけたのか、分かっているからだ。


―バタンッ―

ゆき乃が思いっきり閉めた扉の音で、我に返る。

私は何をしていた?

ゆき乃に何をしようとしていた?

事の重大さに気付いたのは、ゆき乃の心の悲鳴にも似た泣き叫ぶ声が聞こえてからだ。

「うわぁぁぁぁぁん!」

それは、扉を隔ててもなお、はっきりとリビングに響かせた。

小さい頃から何かと世話をかけっぱなしだったせいで、ゆき乃は感情を自制する傾向がある。

だからこんな声を聞いたのは初めてだった。

酔いは冷め、血の気が一気に引いていくのが分かる。

後悔。

あとから悔やんでも何もならないことは分かってはいても、そうすることしかできない。

起こってしまったことを、なかったことには出来ない。