「ただいま」

いつもより疲れた表情でゆき乃はリビングの扉を開く。

「おかえりぃ」

「えっ?」

私が語尾をだらしなく延ばした話し方をしたためだろう、聞き返すような返事をしたのち、私の様子を見て納得する。

「もう。誰が片付けると思ってるんですか」

怒るというよりは、呆れた様子で、ひとつ大きく息を吐き、床に転がったビールの缶を拾う。

「そんなところで寝ちゃったら風邪ひいちゃいますよ」

ソファに横になっている私に優しく諭す。

「う。う~ん…」

意外と頭ははっきりしているから、ゆき乃の声は頭に届いているのだが、どうも体がうまく動かない。

動かないというよりは、動かすのが億劫になっている。

徐々に遠ざかっていくゆき乃の声が、何故か煩(うるさ)いぐらいに頭全体を響かせる。

あぁ。酔っ払ってるからか。

今更ながらに納得する。

「大丈夫?」

ゆき乃がソファの背もたれから顔を覗き込む。