見当違いの方向を見て挨拶をする久代にココがマシロの場所を教える、これはいつものお決まりになっている。
「どうせ見えないし聞こえないんだから挨拶なんてしなくて良いのに。久代は律儀だよね」
そう呟くマシロに「こら!」と、ココはまた注意をした。
――そう。マシロは見えない。
久代以外のほとんどの人間にも、マシロの事は見えないし、声も聞こえないのだ。
マシロは人間ではない。
長い眠りから目覚めた――鬼だ。
しかし、“鬼"”という物騒な言葉とは結び付かないくらい、彼の容姿は可愛らしいものだった。
全体的に丸いイメージのホワホワした髪の毛に、クリッとしたつぶらな瞳。身長はココより高く、中学生になったばかり、くらいの年齢に見える。
だがそれも外見がそう見えるというだけで、実年齢は想像も出来ないくらいのものらしい。
名前の由来にもなった彼の持つ真っ白な髪と肌、そして真っ赤な瞳が、彼が人間では無い事をしっかりと表していた。



