マシロを知らない、マシロと出会う前にも…ココは何度か出会っている。影に追われている。襲われ、取り付かれ、動けなくなる身体。誰にも気づいてもらえない中手放す意識。気がついた時には辺りは真っ暗になっている程に時間が経っていて、そこからまた一人、重い身体を引きずりながら、影に会わない事を願って家へと帰る。そんな事を繰り返して来た。
今までのこの経験ですらトラウマになるには充分だったというのに、今回。初めて友達と同じ姿で同じ声で、話をする影に出会った。この影からどう逃げろというのだろうか。どうやって見分けろというのだろうか。もう出会うこともないと言われて、どうして信用出来るだろうか。
「そうやって信用出来ないココを、誰が信用してくれるの?…ううん、信用してくれる友達が居たとして、それでもココはその子を裏切る事しか出来ないなんて、そんなの嫌。傷つくのも、傷つけるのも嫌。だったら初めから出会わない方がいいの。これでいいの。ココはずっとこのままでいい。他の人と違ってココにはマシロがいる…心から信用出来る人がいる。ココは充分幸せ。もう他に何もいらない」
ーー影さえ見えなければ、引き寄せるこの力が無ければと、何度思ったことか。しかしそれは叶うことのない願い。たった一つの、しかし大きすぎたココの願い。叶う可能性の無いものを願いとは、きっと呼ばない。
ココが顔を上げると、泣き腫らした真っ赤な目がマシロと合う。ココは笑って見せた。心配しないでと言いたかった。そんなに恐い顔してないで、大丈夫だからと言いたかった。しかし、その言葉はなぜか口から出て来なかった。その間、強い雨音だけが辺りを響き渡る。
「…じゃあなんで、雨が止まないのか」



