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その朝、「おっす」と、笑華はいつも通りに直哉に挨拶をした。…が。
「……」
直哉はまさに不機嫌を貼り付けたまま、怖い顔をして笑華を素通りしていった。もちろん、そんな直哉の態度にカチンときた笑華。
「おいコラてめぇ!シカトかこの野郎‼ 」
「は?…あぁ、笑華。なんだよ」
「なんだよじゃねーよ、挨拶‼ 」
「あぁ。おっす」
そしてそのまま直哉はガタン、と席に着いた。「クッソ」なんて吐き捨てるように呟いている。とにかく虫の居所が悪いらしい。
そんな直哉の様子にクラスの雰囲気もシンとして嫌なものへと変わった。いつも明るく元気でハツラツとした人気者の直哉がここまでピリピリしているのは初めてのようで、緊張感が漂っている。
直哉のせいで作り出されたこの状況を見て溜息をついた笑華。奴とは幼少時代からの付き合いだ。こんなに荒れた周囲の人間が恐れをなす直哉だって、笑華にとってはなんら変わりないもともとそのままの直哉だった。



