何故だか不思議に、豪の腕の中は安心出来た。



それと同時にあの人を思い出す。



豪は違う…なのに、こんなにもあの人を思い出させてしまうのは何故?



薄れてしまいそうになる記憶が、こうしてまた呼び起こされる。



豪の腕の中では、悲しみは不思議と安らいでいた。



「あやめ…俺がお前を守るから…だから…全部俺のもんになれよ」



「………」



豪は、黙ったままのあたしを切なそうに見つめ、きつく抱き締めた。



こんなにも近くに、あたしを求める人がいる。



凄く幸せな事なのに…素直に「はい」と言えないあたしがいた。