「親父…頼みがあるんだけど」
今度は愁がお父さんに突拍子のないことを言いだした。
「俺、後継ぎ辞退する」
愁はすっきりした顔で笑った。
はい?
「お前どういうつもりだ!?」
当然のごとくお兄さんは怒り出した。
愁はその様子に臆せず答える。
「俺は…今のままがいい…。後継ぎの話、聞いた時は確かに嬉しかった。俺のしたことが評価されてたみたいだしな?でも俺は少し高屋から離れてやってみようと思うんだ。自分の力で」
愁は私の手をそっと握った。
「ふざけるな!!俺が今までどんな想いでお前に接してたと思ってんだ!?」
「夏輝。やめなさい」
お父さんの一言で周囲の空気が張り詰める。
「本気か?」
その射るような眼差しに息が出来なくなる。
これが大企業の社長の威厳…。
押しつぶされそうだった。
「はい、勝手ですいません」
お父さんは暫く愁を見つめた後、力を抜いてフッと笑った。
「いいだろう。アメリカには夏輝ひとりで帰りなさい」
「父さん!!」
「わかっただろう?愁はやると言ったら絶対やるぞ。本当なら高屋の為に働いて欲しかったがな…」
愁のお父さんは寂しそうに笑った。



