「愁」
その声で私達は離れた。
「親父…」
愁の視線の先には見たことのないなおじ様とお兄さんがいた。
お父さんっ!?
「こちらのお嬢さんは…?」
ダンディーなおじ様、もとい愁のお父さんは私達が抱き合っていたことはあえて突っ込まなかった。
私は慌てて頭を下げた。
「初めましてっ!!」
その時、私の頭のなかでこだましたのは紘一さんのあの言葉だった。
“美弦らしく堂々と生きればいいんだ”
私はしっかりと顔を上げて愁のお父さんを見据えた。
「初めまして…高梨…高梨美弦といいます」
これにはその場にいた全員が眼を丸くしていた。
早まったか…な…?
少しだけ後悔したけど思い直す。
こうでもしないとだめだ。
愁と同じ場所に立って同じものを感じたい。
「高梨…?」
お兄さんは訝しげに眉を寄せた。
「はい…私の父は高梨紘一です」
きっと聞きたいことは山ほどあるのだろうけど、お兄さんとお父さんはそれ以上追及しなかった。



