「待ってっ!!」


心の声に突き動かされるように私は声を張り上げた。


愁は足をとめ、ゆっくりと振り返る。


「なに?」


その声に背筋がゾクッとする。


冷たい眼―…。


そこにいたのは私の知ってる愁ではなく“氷の男”だった。


自分がこんな眼で見られる日が来るとは思わなかった。


恐れる心を奮い立たせ、ありったけの勇気を振り絞って叫ぶ。


「私…まだ愁が好きっ!!好きなの…っ…」


泣き出しそうなのを必死にこらえる。


まだ泣かない…。


泣きたくない…っ…。


愁は私を見て軽く息を吐いた。


そしてその唇から残酷な言葉を紡ぎ出す。


「別れようって言ったはずだ。俺のことはもう…忘れろ…」


そう言って私に背を向けると今度は振り返りもせず立ち去った。





愁の背中を見つめながら…私は泣いた。


ただ、静かに…。


彼を想って泣いた…。


そして決めた。


これで最後にする。


今日で最後―…。


千切れそうな心を抱えていくのはもう…嫌だ…。


最後の一滴を流すと私も振り返らずに歩きだした。


こうして私達の道は完全に分かれた。


…しかしこの後、更に私の心を打ちのめす出来事が起こることになる。