「それからは俺と兄貴はほとんど口もきかなくなった。っというか高屋の人間とは…かな…」
グスグスとすすり泣く声が聞こえて俺は顔を上げた。
「なあ…何で泣くの…?」
美弦の目からは俺なんかには逆立ちしたって流せないような透明で綺麗な涙が滴っていた。
「だって…っ…しゅう…が…っ…泣かない…からっ…」
俺のかわりに泣いてくれてるのか…?
指でそっと涙を拭ってやる。
「ホントは…っ…お兄さんが…大好き…なんでしょ…?だからっ…つら…くて…さびしかったんでしょ…?」
美弦はそう言ってまた涙を零し始めた。
どうしてなんだろうか…?
美弦はどうしてこんなにも俺のことを理解してくれるのだろう…?
いつの間にか心の隙間に入り込んで新しい気持ちで満たしてくれる。
美弦がいるだけで世界が変わる。
黒く荒んだ心が癒される。
俺の大事な大事な唯一の人―…。
震える体、
涙で濡れた瞳、
その髪の毛一筋さえ愛おしくて。
…俺は我を忘れた。
俺は美弦をソファに押し倒した。



