「昔は…昔は違ったんだ…」
思いつくままに紡ぐ。
「昔は兄貴も俺も仲が良かったんだ。家から抜け出した俺を連れ戻しに来たのも兄貴。
匡人と引き合わせたのも兄貴だった」
ホントの兄さんみたいに接してくれた。
それを俺が喜んだのは言うまでもない。
兄貴は…優しかった。
「変わったのは…俺が中学生になった時だ。ある日俺は兄貴と親父の部屋に呼ばれた」
美弦が俺に寄り添うようにして頭を撫でる。
ひどく心地が良かった。
「親父は経営者としても人間としてもよくできた人だったから…。俺たちにこう言ったんだ」
息を吸う。
一言一句間違わないように。
「“後継ぎを血筋で決めるつもりはない。会社は2人のうち相応しい人間に継がせるつもりだ”」
そのときの俺と兄貴の驚きは言葉では表せない。
「その話を聞き終わった後、兄貴は俺に言った」
今でも忘れられない。
きっと忘れることはないと思う。
「“もうお前は弟じゃない”」



