「喧嘩したの…?」
俺の手にてきぱきと包帯を巻ながら美弦は尋ねた。
こういうところは器用なんだなと感心しながら答える。
「してない…。自分で壁殴っただけ」
「痛くない?」
「平気」
包帯を巻かれた手は多少不便にはなったが痛みはなかった。
「あの人…誰だったの…?」
手当てが終わり美弦は俺の隣に静かに座る。
「…俺の兄貴」
兄貴か…。
自分で口にしておいて少し笑えた。
「お兄さん?」
美弦は意外そうに聞き返した。
確かに、俺は家族の話はあまりしない。
美弦も俺の家の事情を知っているせいか聞かない。
「そう…義理だけど…」
俺は当然兄貴である夏輝さんの話もしなかった。
「知らなかった…」
「まあ、俺も夏輝さんが3年前、アメリカに行ったきり会ってなかったしな」
出来れば会いたくなかった。
「愁はお兄さんのこと嫌いなの…?」
美弦は真っ直ぐ俺を見つめた。
「どうして…そう思う…?」
「愁の顔がびっくりするくらい冷たくなったから…」
やっぱり…誤魔化せないな。
俺が美弦を見ているように美弦も俺をよく見てる。
俺は体の力を抜いて美弦の肩にもたれかかった。
こんな風に体を預けるなんて久し振りかもしれない。



