「いつ…いつ日本に帰って来たんですか?」
“あの人”はシートベルトをつける手を止め、こちらを見た。
「1週間前だ。年明けにはあっちに戻る」
「そうですか。わざわざ引き止めてすいませんでした」
俺はお礼を言い、ウインドウから体を引いた。
俺の思い過ごしなのか…。
ただの仕事…か…。
俺の耳に次に届いたのは事務的な連絡だった。
「父さんから伝言だ。“正月には必ず帰るように”だそうだ」
「…わかりました。夏輝さん」
俺はそう言ってマンションのエントランスに入った。
一度も振り返らなかった。
エンジンの音がしてやっと呼吸が楽になった。
俺は柄にもなく緊張していたのか…。
手のひらに掻いていた汗がひどく気持ちが悪かった。
「くそっ!!」
俺は壁を殴りつけた。



