「愁…?」
俺の様子に気づいた美弦は“あの人”と俺の顔を交互に見比べた。
「美弦…先に中入ってて…」
「でも…」
なおも心配そうに俺をのぞきこむ美弦に鍵を渡す。
「大丈夫…すぐ戻るから」
そう言って俺は美弦の頭をクシャっと撫でた。
美弦はチラチラと後ろを振り返りながらマンションに入っていった。
それを確認してから“あの人”が口を開いた。
「お前の女か?」
口の端を軽く上げ鼻で笑うあの人に心底腹が立つ。
「あなたには関係ありません。何の御用ですか…?」
「書類を取りに来ただけだ。そう邪険にするな、用が済んだら帰る」
腕時計に目を向けつつ“あの人”は携帯を取り出した。
本来ならこんなことするような立場の人間じゃないはずだ。
何を考えているんだ…?
「書類なら昨日親父の秘書が取りに来ました」
何が目的だ…?
「ならいい。俺は会社に戻る」
“あの人”は俺に背を向け車に乗り込んだ。
俺は慌てて車のウインドウに張り付いた。
最後にどうしても確認しなければいけない。



