「これ、鍵。匡人先輩から預かってきたから…」
美弦はキッチンから出てきて俺の前まで来た。
「…ん」
美弦の手にある鍵を受け取るためにてのひらを差し出す。
でもいくら待っても俺の手に鍵は戻ってこなかった。
「美弦?」
美弦は鍵を持った手を胸元でギュッと握った。
「ねえ…どうして風邪引いてるって言ってくれなかったの…?」
…そんな顔させたくなかったからだよ。
かろうじてそのセリフを飲み込む。
「風邪なんて寝れば治る。わざわざ言う必要もないと思って」
俺は美弦の手を開かせて鍵を取った。
「私は…っ…言って欲しかったっ!!」
苦しくて眩暈をしてしまいそうになった。
「愁が苦しいときには何もしないなんて嫌…っ…」
美弦の言っていることに嘘偽りなんてこれっぽちもなくて。
ただ純粋に俺を心配してくれていて。
その気持ちが分かった瞬間、俺は奥歯をかみ締めた。
どうしても出来なかった。
風邪を引いて弱っていて、思い出したくもない過去と格闘している俺なんか見せたくなかった。
でもそれこそが美弦を傷つけていたなんて…。
「美弦にはかっこ悪いところを見せたくなかったんだ」
堪らなくなって俺は熱っぽい体で美弦を引き寄せた。
「ごめん、だから泣くなよ」
「っだって…っ…!!私…愁に…っ…全然…頼られてないんだなって…っ…!!」
違うと口にしかけてやめた。
頼る頼らないの問題以前に俺が今こうしているのは美弦のお陰なんだとどう言葉にしていいか分からなかった。



