「自分をもっと大事にしろ。お前は取替えのきく消耗品じゃないんだ…っ…!!」
俺のことを言っているのに何故か紘一さんの方が苦しそうだった。
「きっとどこかにいる。俺に美月がいたように…っ…愁にも見つかるから―…」
振り絞るように叫ばれた言葉は都合のいい綺麗事のようにも聞こえた。
いるんだろうか…。こんな俺を受け入れてくれる人が―…。
「諦めるなよ…っ…!!」
こんなにずるくて、汚くて、どうしようもない俺の前にも現れてくれるんだろうか…。
「…っ…!!」
そう思ったら途端に怖くなった。
俺は今まで何をしていたんだろう?
そうだ。
俺も知らず知らずの内に染まっていた。
いつしか自分が嫌悪していた人間になっていたんだ。
眼を背け続けていた事実に気がついたとき、出てきたのは涙だった。
俺はもしかしたら泣きたかったのかもしれない。
高屋家に来てからずっと、本当は泣きたかったのかもしれない…。
俺は掌で顔を覆い、声を押し殺して泣いた。
辛くて逃げ出してばかりだった。
もう、逃げたくない。
自分からも高屋家からも。
それでも今は、顔も知らない誰かに縋ることしか出来ない。
どうか…。
どうか…現れてください。
強くなるから。
誰よりも、何よりも大事にするから。
早く俺の前に現れてください―…。



