「どうして自分が呼び出されたか分かってるか?」
紘一さんはここ数ヶ月の中でもとりわけ厳しい表情をしていた。
「さあ?」
俺はわざと紘一さんの神経を逆なでするようにおどけて笑ってみせた。
紘一さんはその様子に落胆し、ため息をついた。
「高屋さんも随分と心を痛めていたぞ?」
今日の呼び出しは親父経由か…。
養父でもあり高屋家の最高権力者でもある親父は俺に対して妙な負い目がある。
だから面と向かってお説教はしない。
それでも時々こうして紘一さんを使って俺の行動を諭そうとする。
ずるいというか…頭が良い。
「親父にも紘一さんにも俺の行動を指図されたくありません」
吐き捨てるように言うと扉へと向かう。
たいした用がないなら呼ばないでもらいたい。
「愁、逃げるな」
逃げる…?
俺はゆっくりと紘一さんに視線を戻した。
「お前は匡人とは違う。お前は自分を割り切れる程、器用じゃないだろ」
紘一さんは俺の目をまっすぐ射抜いていた。
どうしてわかるんだろうか…。
女を抱くたびに何とも言えない虚しさを感じていたこと。
誰と繋がっても埋まらない寂しさ。
それを誤魔化すように何度も何度も相手を変えていたこと。



