「どうしたの?」


美弦が心配そうな顔をして俺の顔を覗きこんできた。


ふと辺りを見回すといつの間にか中庭に来ていた。


「なんでもない」


意識が飛んでいたのか?


美弦の話ですらうろ覚えになるくらいだから本格的に熱があるのかもしれない。


「大丈夫?変だよ、今日の愁…」


「大丈夫だって」


ただ夢見が悪かっただけだ。


体が弱ってるときは精神的にもまいってるのか。


思い出したくないことばかりが蘇る。


こういうときの自分はろくな表情をしていないのだろう。


美弦には知られたくない。


あんなにも黒く、堕ちていた自分を―…。


「愁…?」


ごめん、美弦。


まだ言えない。


言えないんだ―…。


俺は美弦の腰に手を回して体を引き寄せた。


柔らかい唇を自分のものと重ねて言いたくない本心を隠す。


俺はずるいよな…。


「このまま授業さぼろっか」


俺の胸の中で美弦は小さく頷いた―…。