「はぁ…」
家に帰っても考えることはひとつだ。
「いつまでこうしていられるんだろ…」
紘一さん、帰って来ないな…。
テーブルの上にはネクタイが入った紙袋。
せめて渡してから別れが言いたい。
だめだ…どんどん悪い方に考えちゃう…。
散歩でもしよう!!うん!!
私は裏口から外にでた。
その辺を当てもなく歩いていく。
あっこんなところに公園発見!!
普段は通らない道だったから意外なものを見つけた。
なんだか懐かしいな…。
近くにあった木造のベンチに座る。
こうしているとお母さんと手を繋いで公園から帰ったことを思い出す。
“ねぇおかあさん。なんでみつるにはおとうさんがいないのぉ?”
私は隣を歩くお母さんを見上げた。
“美弦にはお父さんがいないかわりにお母さんがいるでしょ?お母さんはお父さんにだってなれるんだよ?だからひとりで十分なんだよ”
“なあんだ!!”
私はすぐに機嫌が直った。
遠い遠いあの日。
父親がいるなんてまだ知らなかったあの日。
私はお母さんの言葉をすっかり信じ込んだ。
お母さんの言葉が幼い私を傷つけないための嘘だと気がついたのはもう少し後のこと。
ねえお母さん…?
今ならなんて答える…?
何で紘一さんと離れちゃったの…?
15年の差は埋められないのかなあ…?
答えてよ…お母さん…。



