「愁も月日が経つにつれて人との距離の取り方が身について傷つくことも減った。でも心を開ける人間も僅かになった。俺は正直、愁はこのまま生きていくんだって思ってた」
匡人先輩は真っ直ぐ私の目を見つめる。
「結論から言うよ。愁は絶対に美弦ちゃんを手放さない」
その切れ長の目が捉えて離さない。
「絶対に、だ」
確信しているように力強く言う先輩。
「あいつはもっと美弦ちゃんの存在に感謝しなきゃいけないんだ。嘘偽りだらけのこの場所で美弦ちゃんみたいな人間に出会えたことがどれほど幸運かあいつはまだわかってないんだよ」
そう言って微笑んだ匡人先輩は少しだけ寂しそうだった。
「あの…私…」
なんだか困っちゃうなあ…。
こんな風に言われると思わなかった。
匡人先輩が嘘を言ってるようには思えないけど、すべてを信用するには私にとって都合がよすぎる気がした。
「愁が一番恐れていることはね…美弦ちゃんが離れていくことだよ。だからミスコンも大反対だったんだ。どこのどいつが美弦ちゃんを掻っ攫っていくかわからないだろ?」
私は自分の手をぎゅっと握った。
匡人先輩の言葉に胸が疼く。
愁の怒ったような態度がすべて愛情の裏返しなら、
それはなんて嬉しいことなんだろう―…。



