「美弦ちゃんはさ…俺とか愁のことどう思う?」
匡人先輩は外を見たまま私に話しかけた。
「どうって…」
匡人先輩の意図がわからず困惑する。
「人より恵まれた環境にいるから幸せだって思う?」
ハッと気づいて匡人先輩の顔を見つめる。
目があった先輩は寂しげに笑った。
「確かに俺や愁は人より多くのものを持ってる。でもそれが必ずしも幸せな訳じゃないんだ。愁のガキの頃の話聞いた?」
「家をしょっちゅう抜け出したってやつですか?」
匡人先輩は苦笑いをした。
「あいつは8歳の時にこっちの世界に来ただろ…しかも高屋家に。美弦ちゃんにはわからないかもしれないけど、この世界は見栄と建て前でできてるんだ。本音を隠して平気で嘘をつく。幼い愁がそんな環境から逃げ出したくて当然なんだよ」
「愁が…逃げ出す…?」
「高屋の名前は絶大だったからな…。あっという間に愁の周りには嘘ばっかり並べ立てる奴らが集まった。まあ今も変わらないけど」
先輩は冷めてしまったコーヒーを飲み干した。
「辛かったよね…」
どれほど傷つけられたんだろうか…。
幼い愁はきっと辛くて寂しくて孤独だったはずだ。
逃げ出すくらい…。



