“谷田って妻子持ちだから不倫になるの!
このキケンな感じがドキドキしない?”
して、たまるか。
「ただいま。」
「お帰り、奈緒。」
うちに父はいない。
あたしが小さい頃、若い女と不倫したからだ。
「通知表、どうだった?」
「んー…そこそこ。」
こんな話は誰にもしてないから、由希子も悪気があったわけではない。
単純に今時流行りの“禁断の愛”とやらに惑わされて言っただけ。
本物の“禁断の愛”は、なにかの犠牲の上に成り立つもので、
そんな、ドラマのように甘くない。
部屋に入り荷物を置いて、制服のままベッドに横たわった。
不倫したときの父の心情なんか、知ったこっちゃないけど
そのまま父は腹を大きくした若い女と姿を消した。
家の金を持っていって。
泣き続けた母の横で、どうすることもできないあたしは、ただただ母を慰め続けた。
記憶を思い返しながら、あたしは制服のまま眠りについた。