「二人とも遅い!!」
ビルに入ってすぐ、女性の怒鳴り声が聞こえた。
悠稀と唯織が受付を見ると、そこにはスーツを着た美人。
「げっ、国見だ」
「あちゃ~薫に見つかった」
顔を引き攣らせながら近寄った二人に、薫は容赦なく拳骨を喰らわせた。
「「いった~!!」」
涙目になって見上げる二人は、ファンが見れば真っ赤になるだろう。
だが、事務所のメンバーである国見薫クニミカオルには全く効果が無い。
「さっさと上に行くわよ!」
そう言って薫がパチンッと指を鳴らすと、後ろに控えていた事務所のメンバーが悠稀と唯織を抱えてエレベーターへ向かった。
焦る二人を無視して、連携のとれた無駄のない動きでビルの最上階―――早瀬芸能事務所まで連行する。
―――チンッ
レトロな音と共に到着したそこには、ワンピースを纏った優しげな女の人が立っていた。
その人を見て、二人の顔がさらに引き攣る。
「…お母さん」
「…愛華さん」
エレベーターの前に立っていたのは、唯織の母・愛華アイカだった。
「二人とも急ぎなさい。あと10分でスタジオに移動ですよ」
優しく笑っているはずなのに何故か威圧感を発する愛華に焦り、二人は急いで専用の衣装ルームに入った。
―――バタンッ
「「はぁ~~~」」
部屋に駆け込んで椅子に座った二人は大きく息を吐いた。
「相変わらず愛華さんの笑顔は怖いな」
「うん、お母さんが家族じゃ一番強いしね…」
力なく会話をしながらも準備を始める二人。
