「ごめんね、せっかくくれるつもりだったのに……」


片目を閉じて、チサの様子を窺うように謝る蓮さんはなんだかホントにチサの彼氏のようで、訳も分からず辛くなる。


「でも実は俺、甘いものダメなんだよね。だから気持ちだけ先にもらっとく!ありがとうね」


……蓮さん、甘いものダメだったんだ。

じゃぁチョコじゃない別の何か……?

ってそうじゃない。私が渡すわけじゃないんだから。


いつの間にかチョコの代案を考えていた自分の頭を左右に振って「しっかりしろ」と正気に戻す。


チサはバレンタインの兆しが消えて呆けているのか、それとも私と同じように代案を考えているのか、微動だにしない。


「それじゃ、菜月ちゃんも!またね」


蓮さんはドアの前で振り返ると私へ手を振ってくれた。

人懐っこいわけでもない私は、手を振り返すことができず会釈だけして見送った。