予鈴の10分前だから、廊下は登校した生徒でいっぱい。

うつむいて、下まぶたに溜まった涙を隠しながら、その中を足早に歩く。けれど。

「待って、亜矢!」

突然、手首を掴まれた。

声で真由美だとわかったあたしは、前を向いたまま手を振り払おうとする。

でも、真由美はしっかりと手に力を入れていて。

「どうしたの? いきなり」

わけがわからない、とでも言うかのような言葉を口にした。

「……」

真由美は変わった。

この子はもう、あたしが好きだった女の子じゃない。

もう、親友じゃない。

「なんで勝手に貸すわけ? ……アレはあたしのものでしょ」

何も言えなくて、やっとのことで口にした言葉は、これだった。

あのMDは、真由美だから持ってきたんだよ。