「星野先生がAVに? いやいや、ありえないでしょ」


「ホントなんだっての!」


 田井が大声を出したので、クラスメイトたちが彼らの方を一斉に見た。

田井はあまり聞かれるのはまずい話だったことを思い出して、またヒソヒソと話し出す。


「そんでオレ、慌てて自分の部屋からボイスレコーダーを持っていって、声だけでもって録音したわけよ。戻ったときにはもうエロいシーン終わってて、なんか芝居みたいになってたんだけど、まあそのおかげで声はわかりやすいと思う。聞いてみてくれ」


 田井が再生ボタンを押すと、ボイスレコーダーから女性の声が流れ始めた。


『ザザッ……ねえ、知ってる? 流れ星って、いくら手を伸ばしても、つかめないんだよ……ザザザ』


「これは……」


 ショートはボイスレコーダーから流れる声に、思うところがあった。


「とんでもなく棒読みだ」


「ホントだよな」


「しかもセリフがアホらしい」


「ホントだよな。でも、星野先生の声だろ?」


 ショートはうーん、と悩むように、グーにした手をあごに当てて、体を左右に揺らした。


「どうかな? わかんない。似てるのは似てるけど」


「そうなんだよ。顔もちょっと違う気がしたんだよなー」


「なんだよ、ただのそっくりさんじゃん」


「いや、そうじゃなくて……うん、たぶん今よりちょっと若かったんだ。5年前くらいに撮られたヤツなんじゃないかなぁ。たぶんだけど」


「……封印された過去ってやつかな」


「そうかもなー。オレ、アニキの部屋に忍び込んで、もう一回調べてみる」


 キーンコーンカーンコーン。1時間目の予鈴が鳴った。

席を離れて話をしていた生徒が、少しずつ自分の席へ戻って行く。


「お、授業か! 1時間目ってなんだっけ?」


 田井の問いかけに、ショートは自信満々に親指を立てた。


「星野先生の理科だね。ぼくの得意科目」


「理科かぁ。オレ、苦手なんだよな」


「田井は保健体育以外、全部苦手じゃん」