私は、荷物も持たずにアパートに帰った。

自分でも何をしているのか解らなかった。

ただ頭が真っ白で…。
何も考えられる事が出来なかった。

壱くんと里桜とは1年生の時に同じクラスだった。
3人でよく遊びに行った。

好きだった。
里桜が壱くんを好きになるより前から。
ずっと壱くんが好きだった。

でも、里桜に「協力してくれるよね?」と言われ、「もちろんだよ。」と言ってしまったのだ。

それに、里桜と付き合うと決めたのは、他でもない壱くん自身なのだから。

もう2年も前の話だ。
まさか今さら…。


「うわっ!なに?」

母が帰ってきたようだ。

「電気くらい付けようよ。」

気づくと外はドップリと暗くなっていた。
一体…何時間こうしてたんだろう…。

「今日、転校生にヒドい事言って、勝手に学校帰っちゃったんだって?職場に連絡があったわ。」

居間でうずくまっていた私の前に座りながら言う。

「何があったか知らないけど、人を傷つけていい事なんて絶対にないのよ?解るわね?」

私は何も言わずに頷いた。

「それが解ってるなら良いの。」

母はそれ以上何も聞かなかったし、何も言わなかった。

母なりの優しさなのだろう。

携帯には、里桜からたくさんのメールやら着信があったけど、私は返事をする事はなかった。