図書室には、やっぱり黒木くんがいた。

「黒木くん!」

呼びかけると、黒木くんは呼んでいた本から目を離して私の方を見た。

「何か用?」

「この本のおかげで助かったよ!ありがとう♪」

私は、笑顔で言う。

「そう。」

黒木くんは、どうでも良さそうに再び本を読み始めた。

「この本、倉庫にあった本らしくてね!先生が…」

「…はぁ。」

…え?

話を最後まで聞くことなく、黒木くんは本を閉じて図書室のドアに手を掛けた。

「あっ。黒木くん!」

私の呼び掛けを無視して、黒木くんは出ていってしまった。

先生に褒められて、少し高かった私のテンションは一気に下がった。

黒木くん…いつも静かに本を読んでいたから、邪魔だったのかもしれない。

本を教えてくれたのも、きっと、早く出て行って欲しかったからなんだ…。

「この本…教えてくれてありがとう。」

1人残された図書室で、小さく呟いた。


校庭に咲き誇っていた桜も散って、夏も目前に迫った春の終わりの出来事だった。