葉子を家まで送り、自宅に着いた頃には両手は芯から冷え切っていた。

暗闇に包まれる中、会話のない二人乗りがあれほど息苦しいとは知らなかった。

バスの中での葉子は普段の男勝りな性格ではなく戸惑っていたが、家に届けた頃にはいつもの葉子に戻っており、少しからかうと後ろから背中を殴られた。


「早く風呂入ろ。」

腹はもちろん減っていたが今はそれより冷え切った体を一刻も早く温めたい。

時刻は午後8時。母はまだ仕事から帰ってはいない。


独りの時間も、もう慣れてしまった。物心ついた頃からこの暮らしなのだから。

「ピピーッ、ピピーッ。」
ようやくかと、リビングから腰を上げ、バスルームへ向かう。


「はぁ、一日中振り回されたな。」

浴槽に浸かりながら独り呟く。適温より少し熱いが、冷えた体にはちょうどいい。

「それにしても、葉子のやつ、何で泣いてたんだろう?」

昔からの馴染みだが、葉子が涙を流すことなんて殆ど見たことがない。

「本人に聞いても答える訳ないし。まあ、それほど気にする事じゃないだろ。」