冬枯れの街路樹に囲まれた小さな公園。昔から私と葉子はよくここで遊んでいた。

青色のペンキで塗装され、光沢のあったブランコは今はもう見る影もない。

その中でも特別な場所があった。そこは地元の子供達の秘密基地として、永くにわたって愛されてきた。

手動で開く錆び付いたドア、運転席から後方席まで左右対象に二席ずつ設置された座席。
ボロボロになるまで走り回されたバスは、その役目が終わっても尚、こうして公園の片隅で働いている。

今日もこうして、独りの乗客を乗せて。


「あんたまだ帰ってなかったの!?」

「帰れる訳ねえだろ。後ろ付いてきてるかと思えばいつまで待っても来ねえし。マジで焦るわ。」


一番後ろの座席は昔から葉子の特等席だった。
それは今でも変わってはいない。
だから見つけることは容易であった。


「この場所覚えてる?」

「なんだよいきなり?忘れる訳ないだろ。昔あんだけ夢中になって遊んでたのに。」

暗闇に包まれてお互いの顔は見えない中、会話が進んでゆく。

「そうだよね…ねぇ、もう一回自転車乗せてくれる?」


「なんでそんな事聞くんだ?早く乗れ、送ってくから。」

「うん。」


気づいていたがそれを口に出すほど私は馬鹿ではない。

自転車をこぐ私の後ろで声を殺し、肩を震わす理由を。