髪の乱れを気にしている暇はない。
予鈴が聞こえるというのに私はまだ駐輪場に
いる。

「まだギリギリ間に合う」
駐輪という名の放置をかまし、スプリンターの如き走りで教室への階段を駆け上がる。

「あんた何してんの?」

「へっ!?」

人は急に止まれない。
足が絡まり廊下に転がる。

「葉子こんなとこで何してんだよ!?」

「何って帰るに決まってんじゃない。」

「いやいや、昼からの講義さぼんのかよ。」

「人聞き悪いこと言わないでよ。教授が体調崩して休むらしいから昼からは講義ないわよ。」




…はい?


「あんたまさかわざわざ昼からの講義受けるために来たの?」


呆然とする私の前で
死ぬんじゃないかと
思うくらい腹を抱えて
葉子が笑っている。


「また入院しそう。」

「あは、あははは、お腹痛い~っ」


幼なじみが今目の前で
悲しみやら怒りやらを
かき混ぜて出来た鉛色の感情に顔を歪めているというのに。
仮に逆の立場なら
間違いなく私は廊下に突っ伏したまま屍となっているだろう。

「ねえ、あんたどうせ暇なんでしょ?」

さっきまで笑っていたせいか、葉子の声は些か震えていた。


「暇も何も、予定がすべてブチ壊れたからな。」


「ならこれから買い物付き合いなさいよ。」


「へいへい。葉子さんの荷物持ちさしてもらいますよ。」


「よろしい。仕方ないからジュースでも奢ったげる。」


いつまで経っても扱いが子供のままという事にも慣れてしまった。


駐輪場に行き、自転車の後方に葉子を乗せて
私たちは大学を出た。