正直言って、自転車を
こいで一時間以上かかる大学に通うのは
かなりきつい。

大半の学生は自動車か
バイクで通学している。
自転車で通っているのは私を含めて数名程だ。


車の免許はちゃんと持っているが、車は二台とも両親が使っている。


バイク…昔事故ってから触れない。


バス代を毎日払える程
財布の中身は潤っては
いない。


自転車しかないではないか。




腕時計を見ると家を出て約半刻が過ぎていた。

普段より少し早めのペースであったが、ちょうど温まるペースが
今のペースだと
体が覚えているのだ。

ようやく上り坂が終わった。
これから先の道は殆ど
下り坂なので
ペダルをこぐ必要はない。

自転車に乗っていて唯一楽しいと感じる事は
何もしなくとも
勝手に風をきり進んでくれるこの時間だ。


季節毎に身に受ける風の質感は違う。
今の季節の風は硬質であるが、その中にもちゃんと優しさが含まれている。
やがて硬質な風は丸みを帯びて穏やかな陽気を纏い、春の訪れを知らせてくれる。

車に乗っていたら
感じることの出来ない。
私にとって普遍的であるが、一方でそれは特別なものでもある。