隣の席の真紘に視線をやるとクラスの男子と話してるところだった。
さっきの女の子たちに振りまいてた笑顔とは違う、少年っぽい笑顔。この顔もどこか、真紘じゃなかった。
ナルシストって印象が強すぎて忘れかけるけど、真紘は社交的だしいいヤツだ。だから友達も多いし、女の子たちは惹かれる。知ってる。
それに比べて私は同年代の人が苦手で学校では口を閉ざしがち。行きは行きで朝の真紘の身支度(儀式と私は呼んでいる)に付き合って、学校が終わったら真紘に引きずられるようにして家に帰る。特別親しい友達はいないけどクラスで浮いてるってわけでもなく。ごく普通のマトモな女子高生。
チャイムが鳴って、みんなが体操着の入った袋とか鞄を提げて体育館に向かいだす。私も遅れないようにと慌てて立ち上がると視界の隅に逃走者の姿が映った。あんにゃろ。
「真紘君、どこ行くのかな?」
体育館は反対方向だけど? と背中に声を掛けると本日2度目の舌打ちをした真紘は気を取り直したように振り返ってニッコリ微笑んだ。
「柚葉ちゃん、一緒に――……」
「君さ、何回目? 単位大丈夫なわけ?」
さすがの私でもコイツの全教科の残りの欠席可能単位数まで把握できてない。
本気で呆れてため息混じりに聞くと「大丈夫、大丈夫」と軽すぎる返事が返ってきた。
