「あのさ…、」
『何?』
「……やっぱ何でもない」
不安だろうか。記憶がないのは。
自分がちゃんと誰かも分かっていない状況の中で、ここにいることは不安じゃないはずない。
『変な顔っ!』
急にデカイ声を出したハルに驚いて目を合わせると、ハルは困ったように笑ってた。
『悠那くんがそんな顔しないで。大丈夫だよ、私』
俺の手にそっと触れたハルの冷たい小さな手は僅かにだけど震えていた。
大丈夫じゃないじゃん。
不安なら不安と言えばいいのに。
『いつか元に戻るよ。記憶だってすぐに思い出すよ』
"いつか"っていつ?
一生こないかもしれないよ。
戻らなかったらどうするんだよ。
過去がわからないままハルは新しく未来を進んで行けるとでも言うのか?
ハルの言葉の裏に隠された不安を何故か気にする俺は、ちょっと可笑しいのかもしれない。
他人のこと。ましてや幽霊。
そしてたった今日出逢った奴。
気にする必要なんてどこにもないのに。
『あのね、悠那くん』
初めて逢ったハルが、どうしてもほっとけない。

