隣りのお兄さん

この文化住宅のトイレは共同トイレ。
まぁ住民も少ないことだし、そんなに鉢合わせすることもないだろうと思っていた。

「うっわ〜……聞いてたけど、やっぱボロいな」

 ヒドく汚れたトイレ。
ちょっと臭いもいただけない感じ。

「ゲッ!? 鍵、壊れてるやん……」

 鍵が錆でダメになっている。
何度か掛けようとしていると、バキッと音を立てて壊れてしまった。


「……しーらないっと!」


 ボクは壊した鍵を隠し、チョロチョロチョロチョロ〜と用を足していた。
 すると突然、ドアが開いたのだ。

「うっひゃあ!」

 思わず驚いて振り向いた拍子に、小便が横へはみ出てしまった。
そして、その視線の先には……。

「あ……!」

 昨日の隣の男の人だ。
恐ろしいまでの威圧感で立ち尽くしている。

「あ、あの、その、ボクえっと……」

 男の人は逞しい腕を差し出し、人懐っこい笑顔で話し掛けてきた。

「一昨日、オレの西隣に越してきた子ぉやろ?」

「あ、ハイ! そうです! 佐賀優平と申します! 挨拶が遅れてすいません!」

 男の人はキョトンとしていたが、ガッハッハッハ!と快活に笑うと自己紹介をしてくれた。

「オレの名前は岩本 健吾! 北摂津大学体育学部健康スポーツ科の2回生な! ヨロシク!」

 キタセッツダイガク? 北セッツ大学? 

「あ、お、同じ大学……ですね」

 男の人はボクが入学した大学、北摂津大学の先輩だったのだ。