隣りのお兄さん

「おまえ、部活何に入るか考えたんか?」


「へっ?」

 部活? 部活なんて頭の片隅にもなかった。
第一、大學での知り合いもいない状態なのに、部活と言われてもピンと来ない。

「いえ、まだ何にも……」


「ほな、話は早いわ!」

 飲み干したコーヒーの匂いが残る健吾さんの口元が近づいてきて、またドキッとした。

「どや? オレが主将やっとる部活に入らんか?」


「えっ……と」

 ボクは考えた。

体格のいい健吾さんの入っている部活。雰囲気的に、アメリカンフットボールやラグビーだろうと。
闘争心もそんなにないボクにはちょっと無理な話だ。

「どや?」

「あ、でもボク運動神経悪いし……」

「な〜んも心配あらへん! 運動神経なんかゼロでも出来る部活や」

 運動神経がゼロでも? そんなオイシイ話があるだろうか。

 文科系クラブ? だったらボクでも入れるかもしれない。

「んじゃあまぁ……見学にだけでも」

「よっしゃあ! ほな、早速やけど行こうか!」

「え!? あ、でも今から学部ガイダンスが……」

「そんなもん、オレが後で履修の仕方とか教えたる。心配せんでえぇ。行くで!」

 半ば強引に、ボクは健吾さんに手を引かれて食堂を後にした。