「Love Step」バレンタイン過去編

「冗談よ、冗談」


テーブルを拭きながら貴美香は笑った。



「チョコレートで良いじゃない?」



「それでもダメなのっ!」



去年、1000円ほどのチョコレートを買って渡したら、ホワイトデーには5倍位になって返ってきたんだから。



しかも食事に誘ってくれて、きれいなお花が咲いている鉢植えに、キャンデー、マシュマロ、クッキー、チョコレート、極めつけはブランド物の男女を問わない二つ折りのお財布。



だから思っちゃったの……隣の女の子にはこれだけのお返しをしたんだから、彼女さんにはどんな風なんだろうなって……。



ホワイトデーの夜はすごく嬉しくてそんな事を考えずにいたけれど、興奮が冷めた数日後、彼女さんにしてあげた想像が膨らみすぎて眠れなくなった。



極めつけは2週間位前にめぐみさんから聞いたゆきちゃんが貰うチョコレートの話。



だから、あげるのやめようって。



わたしの頭からバレンタインデーを消し去ったつもりだったのに……。



それが、朝起きたらママのチョコレートブラウニー作り。



「――梨?杏梨?」



「えっ?あ、ごめん」



「何をぼんやりしているの?」



「あ……ごめん、なんだっけ?」



「雪哉君、がっかりするわよ?」



「大丈夫だよ 見たくないって言うくらいたくさん貰っているんだから ご馳走様でした」



食べ終わったお茶碗を流しに運ぶ姿を、貴美香はため息混じりに見つめていた。