春花side


"とんとんとん"

いつもの時間。
私の部屋を叩く音。

でも。音は控え目で、いつもとの違いに何だか戸惑う。

「え? 葵ちゃ…ん?」

ドアの先に見えた姿に一瞬驚いた。

「どうしたの? 今日は何かあったの?」

「………」

「とりあえず中に入って?」

私の質問が悪かったのだろうか。葵ちゃんは肩を落とし、しょんぼりとした顔になったまま玄関に入った。

「きゃ!!」

いきなり抱きしめられて戸惑う。

「オレ変? この格好ダメ…?」

葵ちゃんの泣きそうな声に胸が張り裂けそうになる。

何があったの?

私もギュッと抱きしめ返した。安心を与えるように。

「ダメなんかじゃないよ? 今日はどうしたの? 何かあった?」

葵ちゃんは私の肩に顎を乗せながら喋り出した。

「見た…」

「え?」

「スーツ着たヤツと喋ってた」

「見てたの?」

「見た」

「声掛けてくれれば良かったのに」

「出来ないよ。春花ちゃん顔が赤かったもん」

「………」

葵ちゃんが顔を私の首もとにうずめたまま、喋るから、内容はともあれくすぐったくて、でも愛おしさも感じる。