それからもたまに、彼の部屋から出て来る彼女を見掛けた。

「こんばんは」

「こんばんは」

ただ、挨拶を交わすだけの関係。

彼女とそれ以上の会話をする事はないけれど、未だ姿を見せない彼との関係を見せ付けられているようで、

悲しいけれど、その事実を受け入れつつある自分もいた。

失恋したって仕事はある。

私の所属するグループは、原宿向けに出す香水瓶の準備に追われていた。

ウチは小さい会社だけど、デザイナーさんと組んで色々な商品を世に出している。

私の携帯のストラップもその一つで、実際に世に出て、原宿の雑貨屋さんに並んでいる。

私はその会社の下っ端で、市場を調査する係りな訳。

今回の香水瓶のデザインの案は私の考えが随分と取り入れられたらしくて、初めての事にすごく嬉しい。

もちろん。
私の手柄ではなく、あくまでもグループの案になるんだけど。

「出来上がったか。あぁ。良かった、良かった」

上司がほくほくの笑顔で誰かと電話で話している。

どうも今回のデザイナーさんは、上司の友人らしくて。

「ありがとな。あおい」

"あおい"

その言葉に胸がぎゅっと押しつぶされそうになった。

"あおい"
なんて名前はいくらだっているのに。

その名前に反応してしまう私は、自分が思うほど、彼を吹っ切れてないのかもしれない。