【短編】瞳




これで違う男の話しても、そいつで赤くなった桜田を見なくて済む。



「で、誰?」

「え? 誰って誰が?」



そう言って少し首を傾げた。



「映画、一緒に観た男……」

「え……?」



教室の時が止まった様だった。

さっきの穏やかな時間とは違い、
張り詰めた時。


何を感じて
何を思って
何を考えたんだ?



「矢野君……あれは」



駄目だ。
やっぱ聞けねー。

俺、情けねぇな。



「いーよ。何とも思っねーし。
あいつと付き合うんだろ?
てか、付き合ってんだっけ?」



普段こんな一気に喋ったりしねーのに。
楽しくもなんかないのに、作り笑いなんかしてるし。

俺だせぇ。