【短編】瞳



ひたすら走った。

波の桜田を見たって場所まで。


波の見間違いならいいんだ。

別に波を責めたりしない。



ただ……波が声かけれない位、桜田が笑顔だったって。
横断歩道の逆で見たって波なら、デカイ声で呼ぶはずだ。

その波が……。



その場所で息切れをしながら、辺りを見回しても、それらしき人物は……いねーな。



……てか、



波が見たって時間から何時間たってんだよ?

普通に考えて同じとこ居ねーだろ。
俺、馬鹿かも。


てか、携帯あるじゃん(笑)




携帯を取り出して1番始めに出る名前を押した。
呼び出し音が響く耳元。

そして、何故か……少し離れた映画館に目をやったんだ。


桜田、あの映画観たがってたよなー……なんてって思ってさ?



映画館から出て来た桜田を、見つける為なんかじゃない。



楽しそうに笑う横には……男。



俺が鳴らしてるとも知らずに、慌てて鞄の中を探す桜田。


ディスプレイに俺の名前……出てた?
何で、それ見て固まったの?

隣の男に了解を得るのは、必要?



《もしもし?》



いつもの桜田の声。



「あ……俺。矢野だけど」



何話すかなんて考えてなかった。