【短編】瞳




――プシュー……。
――プシュー……。



浮輪に空気を入れ始めて……約10分経過。

まだ入れ始め? 位にしか膨らんでないのは何で?

穴でも開いてるの?


必死に膨らますのに、膨れない浮輪を見ながら、涙が瞳に溜り始めた。



「貸せよ」



え……?
突然、前に大きな影が出来てヒョイと浮輪が宙に浮いた。



――プシュプシュプシュ……。



……早っ!


勢いよく膨らむ浮輪を、呆気に取られて、見てるしか出来ない。



「“ありがとう”とかないの?」



矢野君が……空気入れてくれた?
自分のより先に私のを?


矢野君の顔をポカーンとした顔で見続けた。

あっ喋ってる?!



「ぁっありがとう!」



何か嬉しくて……凄い笑顔になっちゃった。

自分の笑顔を見た訳じゃないけど、
あまりにも無防備な笑顔を向けてしまった事に恥ずかしくなった。