【短編】瞳




逃げるなら……俺自身から逃げろよ。



「んぁ……っ」



クソッ……んな声出すなって。
そんな可愛い顔すんじゃねーよ。





――ドンッ



「嫌っ!」



遅せーよ。

もっと早く突き飛ばせ。
んな、涙目になるまで我慢すんな。



お前の力なんて全然駄目じゃん。
んな弱い力で男退かねーぞ?

でも、俺は早く退かして欲しかったんだ。
早く……止めて欲しかったんだ。


下を向いて唇を拭いながら、



「お前なんて……嫌いなんだよ」



冷たく低い声で言い放った。





走って行く桜田の背中を見て……また溜息だ。

俺、今日何回、溜息ついてんだ?



蒸し暑い暗闇で、街灯に目をやると、
あいつの泣き顔ばっか浮かぶ。



「くそっ……」



やっぱ、こんな暗い中、一人にさせれんねー……。


俺、何やってんだよ?