【短編】瞳




――トンッ…


両手を持たれて、壁に体を押し付けられる。


何これ……舌!?



唇の隙間から、舌が私の中に入ってきた。

歯列をなぞられると背筋がゾクゾクする。

逃げても逃げても追い掛ける矢野君……



駄目……変な声が出る。
私が私じゃないみたい。



――ドンッ


「嫌っ!」



息を吸う瞬間に、前にあった大きな胸を突き飛ばした。

簡単に退いた矢野君は唇を拭いながら、



「お前なんて……嫌いなんだよ」



冷たく低い声で言い放った。



嫌……い?



その場から逃げるように走った。

前も見ないで。
ただ……その場から離れたくて。



やっぱ嫌われてたんだ。