【短編】瞳




いつも矢野君に睨まれたら心臓痛くなるもんね。

いつもと同じだよ……ね?


でも何か痛さが倍増してる?

ううん。
もっと?



「もー大丈夫か?」

「あっ? うっうん」



駄目だ……瞳見れないよ。
胸が痛くて……。
呼吸の仕方もわかんなくなる。


おもっきり逸らしてしまった瞳。


顔があげれない。
どうしよう。



「……桜田?」



――ビクッ



絶対、変だと思われてる。

声を聞くだけで落ち着かない心臓。



「妃芽ー大丈夫?」



離れた場所から波ちゃんの声がした。

矢野君の腕から擦り抜け、慌てて走り、
波ちゃんの胸に飛び込んだ。



「学は、いいのー?」

「あ……」



お礼も言わずに走って来ちゃった。

悪かったよね?


でも……
心臓が痛くて。
苦しくて。


振り返って顔を……瞳を……見る事が出来なかった。